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トランジション・ファイナンスとは?4つの開示要素を含めて解説

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トランジション・ファイナンスとは?4つの開示要素を含めて解説

2050年に脱炭素社会を実現するための大きな助けとなるのが、トランジション・ファイナンスです。
しかし、まだ認知度が低く一部の大企業しか利用していないのが現状です。
そこで今回は、トランジション・ファイナンスとは何か、モデル事例となる具体例などを解説します。

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トランジション・ファイナンスとは

まずは、トランジョンファイナンスの定義や日本の取り組みについて解説します。

トランジション・ファイナンスの定義

トランジョン・ファイナンスは、日本語にすると「移行金融」となります。
脱炭素社会に移行するための技術開発や、設備投資にかかる費用に対する融資をトランジョン・ファイナンスといいます。

世界的に脱炭素社会に向けての取組が広がっています。
しかし、温室効果ガスを多く排出する化石燃料に頼ったブラウンエコノミーから、脱炭素社会のグリーンエコノミーへの転換は、すべての事業がすぐに地球温暖化ガスを削減できるわけではありません。
脱炭素社会の前段階として、まずは新技術の確立や省エネ設備の導入などが必要となります。
脱炭素社会への移行には多くの資金が必要です。その手助けとしてトランジョン(移行)ファイナンスで資金を供給する必要があります。

日本の脱炭素への取り組み

日本では、2020年10月に菅前首相が所信表明で、「2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」と宣言。
これまで日本では、「温暖化への対応は経済成長にとってコストになる」との認識でした。しかし、脱炭素社会の実現は経済への変革をもたらし、経済と環境の好循環をもたらす政策だと位置付けを変更しました。

日本に限ったことではありませんが、トランジション・ファイナンスは比較的新しい概念です。そのため、一般的な認知度が低く、現在は黎明期です。
認知度を上げるためにも、何がトランジション・ファイナンスなのか、具体例を積み上げて共通の認識を作成していかなくてはなりません。

トランジション・ファイナンスで求められる4要素

トランジション・ファイナンスを信頼性のあるものにするため、債券を発行する際は以下の4要素を満たすことが推奨されています。

資金調達者のトランジション戦略とガバナンス

トランジション戦略は、パリ協定の目標に沿った目標を取り入れるべきだとされています。
パリ協定の目標とは、「温室効果ガスの排出を減らし、吸収量とのバランスを取る」ことです。
トランジション・ファイナンスでは、この目標に整合する短期・中期・長期目標を立てて、公開する必要があります。
また、トランジション戦略には、温室効果ガスを削減するために「事業を変革させる内容」を組み込むことが求められています。
単に省エネ設備を導入するというだけでなく、事業自体の根本を変革するような製造プロセスや新しい技術の確率などの検討が必要です。

ビジネスモデルにおける環境面の重要度

トランジション戦略の対象は、自社が行っている事業のどれを選んでもいいわけではありません。事業を変革させると環境面に好影響を与える、中核的な事業を対象とします。
また、中核的な事業の選定を行う際は、複数の気候変動シナリオを考慮する必要があります。
複数の気候変動シナリオとは、気温が〇℃上昇した場合や水害が多発するようになった場合など、気候変動の予測です。
気候変動は確実に進んでいきますが時間軸が長いため、変化の度合いを特定するのは困難です。
そのため、複数のシナリオを検討して、それぞれの場合で自社の事業にどのような影響があるのかを検討します。

科学的根拠のあるクライメート・トランジション戦略

トランジション戦略は科学的に根拠があるデータに基づいて目標を策定します。
感覚や根拠のない予想に流されてしまうと、自社に都合の良い目標や実現不可能な目標になるなど戦略自体の意味がなくなってしまいます。
温室効果ガスの排出削減目標の策定は、環境省が配布している「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」が参考になります。

実施の透明性

トランジション・ファイナンスにより調達した資金の投資計画は、できる限り透明性があるべきだとされています。
投資計画とは、設備の導入費用だけではありません。導入後の運営費や廃棄費用、省エネ技術の研究開発費、M&Aなども投資計画に含まれます。
トランジション戦略に発生する費用をできる限り織り込むことで、実施の透明性を担保します。

トランジション・ファイナンスの具体例

トランジション・ファイナンスのモデル事例として選定された中から、3社の具体例を照会します。

日本郵船

国際海運業は全世界のCO2排出量の2%を占める業界です。
世界最大手の海運会社の一つである日本郵船は、温室効果ガスを削減するために化石燃料を使用する船舶から、LNGを燃料とする船舶に切り替えを推進しています。
LNGは不純物が少ないため、温室効果ガスの発生量も少なくクリーンなエネルギーです。
しかし、LNG船は化石燃料の船と比べると、価格が15~30%ほど高い傾向にあります。
日本郵船はLNG船の調達費用などのために、以下の条件で債券を発行しました。

  • 発行額:合計200億円
  • 返済期限:5~7年
  • 利率:0.26%、0.38%

総額200億円の債券に対し、2000億円以上の申し込みがありました。トランジション・ファイナンスを理由に申し込みした投資家も多く、注目度の高さが分かります。

日本航空

航空機業界も海運と同じく温室効果ガスを多く排出します。
全世界のCO2排出量のうち、航空業界は約2%を排出しています。また、運輸業界の排出量のうち、12%が航空機です。
省エネ技術により30年前と比べると、航空機は半分の燃料で同じ距離を飛べるようになっています。
しかし、船のようにLNGを使用しての飛行は難しく、今後も化石燃料に頼らないといけない状況です。

日本航空ではトランジション・ファイナンスを利用して、最新式の航空機を導入するための資金を調達します。
調達額は200億円を予定していて、燃料効率の高い航空機へ更新することにより、15~25%のCO2削減効果を見込んでいます。

JFEホールディングス

鉄鋼業界は自動車やパソコン、航空機など多くの業界に材料を供給しています。そんな鉄鋼業界ですが、全世界の二酸化炭素排出量のうち7~9%を占めています。
鉄鋼業界が排出する二酸化炭素は、金属を溶かすための炉を稼働させる際に多く発生します。
そのため、JFEホールディングスではカーボンリサイクル高炉の開発を急いでいます。カーボンリサイクル高炉とは、炉から発生したCO2を水素と合成してメタンを作り出し、そのメタンを炉の燃料として再活用します。
この技術によりCO2排出量を30%削減できる見込みです。

出典:JFEホールディングス「JFEグループ環境経営ビジョン2050説明会資料

JEFホールディングスではカーボンリサイクル高炉の開発費用などで、トランジション・ファイナンスを利用し300億円を調達する予定です。

まとめ

トランジション・ファイナンスとは、脱炭素社会への移行段階で必要となる資金調達を後押しするための概念です。
脱炭素社会を実現するためには、省エネ技術の開発や設備の導入など多額の資金が必要となります。
しかし、トランジション・ファイナンスは、まだ一般的な認知度が足りません。現在は、事例を積み上げて、トランジション・ファイナンスとは何なのかを周知させる時期です。
中小企業がトランジション・ファイナンスを利用するのは、戦略の策定などがありハードルが高いですが、重要性が増していく概念なので自社では何ができるか検討していきましょう。

 

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